2015/08/27

鈴本演芸場に行ってきた

ひさびさに落語のことを書く。

長らく「落語フリーク」を自認しておきながら、心の片隅に引っかかっていたことがある。

それは、寄席に行ったことが無いことだ。

これまで、鹿児島で行われたホール落語は聞いたことがあった。
あとイベントの仕事でちょっと。
だが、日本に現在四つある定席の寄席の一つにもに行ったことが無いという事実は、落語ファンとして何にもまして悲しいことだった。

定席の寄席とは……

・新宿末廣亭
・池袋演芸場
・浅草演芸ホール
・鈴本演芸場

  の四席のこと。

それぞれの席は、一カ月を上席・中席・下席の三つに分けられ、そこで落語協会・落語芸術協会いずれかが興行を打っている(大まかに言えば。ちなみに鈴本は前者のみ開催)。
しかしそれにしても。
○谷商事の展開する寄席は、それなりのキャパシティで運営されているのに、なぜ定席的な存在感を認められないのだろう。

ま、なんか言うに言われぬ理由があるのでしょうね。

それはさておき。

このたび私は「ヒョン」なことから東京で半日自由な時間を過ごすチャンスを得、これを機に「寄席デビュー」を果たそうと息巻いたのだった。

この日のために各席のWEBサイトをどんだけチェックしたことか。
その結果、私の中の一番人気は池袋演芸場だった。

この席はしばしば「端席」と呼ばれ、運営的に幾度となく苦境に立たされた過去がある(らしい)。しかしその一方で、落語協会時代の立川談志が義侠心から独演会を行い満員にするなど、ファンの記憶に残っている寄席でもある。最近でも、2015年8月上席初日に落語界三人目の人間国宝である柳家小三治の主任興行が催されるなど大きな話題となったし、それでなくとも私が検討していた日の夜席の主任は「こぶ平の正蔵」が務めるなど、しっくりくるメンツの並ぶ番組構成が魅力的だった。
んで、それ以外の席は正直あんまりパッとしなかった。
(定席ではないが、国立演芸場は休演だった)

で、当日2015年8月26日。
仕事の都合上、銀座線日本橋駅の辺りで自由の身になった私は、夜までに成田に向かわねばならなかったので、地理的に道中にある鈴本演芸場に行くことにした。池袋に後ろ髪を引かれる思いもしたが、とにかく近い所に行った。おのぼりさんなのでびびって安全なルートを選んだのである。

鈴本の客席はビルの三階にある。
席数はざっと250程度。全席イスである。落語の寄席というと桟敷席や畳の印象がだが、鈴本はごく普通のホールだ。もっとも能狂言のように古式に厳しく則るあまり風化を余儀なくされている伝統芸能より、時代の変化に適応して残っていこうとする姿勢は、よいと思う。
ちなみに1階受付・2階自販機、4階はトイレ。2階にもトイレがあるぞ。中入りの時4階のトイレは混むからこちらが狙い目だろう。

さて、箱の話はそれくらいにして。

受付で大人一人2800円の木戸銭を払い、ついに鈴本の客席へ足を踏み入れる。
舞台ではベテラン漫才コンビ「ホームラン」が、その名に似合わぬ謙虚な「安打」的笑いで会場を温めていたところだった。
なかなか面白かった。ボケ役が絶対的優位性を有してツッコミ役にボケをイメージングさせていくあたり、中田カフス・ボタンに似ていると思った。適度に客いじりもあり、いかにも寄席という雰囲気で、初寄席の私としては非常に入りやすい出し物であった。

ホームランの後に出てきたのは、川柳川柳。
周りの人が「あれなんて読むの?」なんて言っているのが聞こえる。
「かわやなぎ・せんりゅー」。元「三遊亭さん生」六代目圓生の直弟子で、御年84歳の大御所である。思ったよりずっと小さいおじいちゃん。
噺は毎度おなじみ「ガーコン」(たぶんこの方はいつもこれだ)。軍歌やジャズの部分は声に張りがあり、実にいきいきとしていた。客席は年寄りばかりで、軍歌の時は客席から合唱や手拍子が出た。寄席における川柳師匠のニーズの高さを物語っている。とはいえ師匠の方が大概の年寄客より年上だろう。
途中で一度くしゃみをし「高座でくしゃみをしたのは初めてだ。みなさんいい物観れたね」と笑いを誘ったが、そんなものなのだろうか。しかも、昔一度だけしゃっくりが止まらないまま一席演ったとのことだったが、そっちの方が想像するのが難しい。
こんな言い方をするのはアレだが、川柳師匠が元気なうちに生のガーコンを観れたことは幸いだ。以前、鹿児島で催された六代目桂文枝襲名公演で4代目金馬の「試し酒」を聞いた時と同じ感慨だ。ありがたやありがたや。

お次は三遊亭歌武蔵。
大きな体で不機嫌そうに話をするこの元関取は、かつて鹿児島で一緒にお仕事をさせていただいた時に直接お話をうかがったことがあったので、親近感があった。かねてより「らくだ」を最後まで演じるなど、正統派の実力者というイメージがあったが、この日は漫談で客席の空気をあたためた。内容は相撲に関するタブー的なよもやま。不機嫌な巨漢キャラは誰でもマツコ・デラックスに近似して見える。次はぜひ古典落語を聞きたい。

中トリ前は珍芸、江戸家小猫。眼鏡の人。
ものまね芸の猫八一門の嫡子で、彼が猫八を継いだら4代目となる。初代は明治元年生まれだそうだ。
最初は一門のお家芸・ホトトギスと鶯の鳴きまね。続いて犬猫猿孔雀羊ヤギアシカアルパカ……イメージとリアルのギャップについての解説を挟みつつ進行していく。
一番の印象は、とにかくものまねの音量が大きいこと。寄席の外まで聞こえそうなくらいだ。もっともマイクを使っているので通るものとは思うが、テレビなどで観て想像していたのとするとずっと大きかった。
あんまり猫の声は似てない気がした。普通と盛っている時の間くらいだったのかな。

中トリは橘家文左衛門。演目は「夏どろ」。彦六の孫弟子さんとのこと。
口調が麻生太郎にそっくりである。それでいて志ん朝師匠の様に勢いがあり、すごくわかりやすくてよかった。

<中入>10分。トイレ休憩だね。
便所に長蛇。
年寄って、なんでなんでもないときに、ウンウンうなずいてるんだろうね。

食いつきは「ニックス」なる姉妹漫才。ちょっときつかったなぁ。
中盤かなり間延びした。雑談を聞いている感じ。

お次は橘家圓太郎。
演目は「祇園祭」。8代目桂文治のお家芸だ。が、圓太郎師匠も負けていない。口調は八代目可楽を思わせる。京都弁と江戸弁の両方を巧みに操った上に、両者の対比が歯切れよく演じられており、非常に聞きやすかった。後半の口三味線(?)の展開は先に出た川柳師匠と今昔の対比ができて面白い。寄席ならではの見え方。
春風亭小朝師匠の弟子とのこと。

お次。五街道雲助師匠。川柳師匠といい大師匠を二人も観れるのはうれしいものだ。
演目は「町内の若い衆」。この噺は下げに独特の臭みがあり、苦笑するしかないような代物だが、恥じらいを失ったお婆ちゃん方には受けていた。長時間の観劇にこういう軽いネタはちょうどいい。口調は彦六師匠そのもの。金原亭馬生の弟子。

これまで出ている落語家を見ていると、彦六師匠、志ん朝師匠の影響が大きいような気がする。

膝がわりは林家楽二。紙切り。正直いって一番笑った。
紙切り技術もさることながら、トークがホントに面白い。それに、よくもまああんなにはさみを動かしながらしゃべれるものだ。切り終わった紙をOHPで舞台奥の壁に投影するのははじめて観た。以前は黒い下敷きに添えて見せていたと思うが、この方が大写しになってよい。
切ったのは「ももたろう」「かみきりげいにん」「ふじむすめ」「ぼんおどり」。「ももたろう」以外は客席からの注文である。「かみきりげいにん」は「ももたろうを切っている紙切り芸人」として「ももたろう」まで合わせて切られ、その精緻さは館内の度肝を抜いた。はさみのテクニックもすごいけど、注文を聞いて一瞬で切るべき構図を決めちゃう判断力・想像力もすごい。
「ふじむすめ」は紙切りの定番だが、これ注文した人が若い男性だったから、御身内が客席にいたのかな……なんて思ったりして。「ぼんおどり」は「こうのとり」を聞き違えて切って大わらわ。
客席を大いに盛り上げてトリにつなぐ辺りは流石。

主任は古今亭文菊。演目は「井戸の茶碗」。坊主頭でほっそりしており、白い着物を着ていたからお坊さんみたいにみえた。昭和54年生まれの35歳。若い。
シーン展開の多い話を一見乱暴につなぎながら、それでもしっかり聞かせていく辺り、アグレッシブで心地よい。アクションが大きくて分かりやすい。女性の声音がやたらと艶っぽい。ちょっと声色を使ってるかなと思った。それまで一人15分のところ、トリは30分くらい。古今亭圓菊師匠の弟子。

こうして私の寄席デビューは終わった。満足じゃ

昼席が終わったのは16:30ごろ。鈴本は総入れ替えで一時間後に夜席がはじまるが、新宿は入れ替え無しとのこと。ガチのマニアになるために、次は新宿で昼夜をぶち抜いてみたい気もする。

 

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