2012/12/17

桂三枝改メ六代目桂文枝襲名披露公演に行ってきた。

桂三枝改メ六代目桂文枝襲名披露公演に行ってきた。

場所は鹿児島市民文化ホール。
客席はほぼ埋まっていた。
数寄者爺さんとそれについてくる婆さん、といった組み合わせばかり。
中年女性も多かった。友達連れみたいなのが。友達と観るなら、月でも宝塚でも落語でも何でもいいみたいな人たち。
若い人はほぼ皆無。
客席をぐるりと見渡すと、98%くらいの入りか。
主催者側が頑張ったんだと思う。かくいうわたしも「お願い」と言われ2割引でチケットを買った。
普段だったら「上方・創作」を聴こうとは思わないわたしだが、買ったからには行こうと。

だいぶ昔から落語を愛してきたが、ホール落語を観賞するのは初めてだ。
今年の9月末に花月の通常興行を観たものの、色物ばかりで落語は中取一席のみ。月亭八方師匠。しかも割り当てが15分くらい。とてもまともに観た気はしなかった。
この日の興行は「落語の襲名披露」。観た気がしないなんてことはないはず。
しかも今回はホール落語といっても独演会ではない。
襲名披露公演だ。
だからより寄席に近い雰囲気なのではないか。
・・・そんな期待をしていったわけだ。

開口一番は桂あやめさん、という人。
女性落語家はめずらしい。という話を枕にもってきた。
そして「古典落語」は女性が主になる話がないということも。
厩火事とかあるじゃないか。やりようの問題じゃないか?
化粧品売り場の様子をやっていた。ジャンル的に粗忽系。
まあおもしろかった。ちょうど20分。

次に出てきたのは桂三歩という人。
産院で子供が生まれるのを待っている中年男の話。
文枝の弟子らしく心理描写系の創作。
まあまあおもしろかった。
15分くらい。

中取は、なぜか関東落語の重鎮・四代目三遊亭金馬。
演目は古典「試し酒」。
どうも間をつくらない話をする人だと思っていたが、演目中の酒を飲む仕草のおかげでいい間がとれていて、聞きやすかった。
名人上手かどうかはさておき、やはり現役落語家芸暦最長。
前の二人とは貫禄が違った。とてもよかった。
お年がお年だから、存命中に聞けてよかった。25分くらい。

<中入り>
中入りというのは休憩のことね。

休憩あけて襲名の口上。
緞帳があがると、舞台は上から下手まで横渡しに緋毛氈。
その上に座るのは、下手から桂きん枝・三遊亭金馬・6代目文枝・今くるよ・今いくよ。
舞台正面には赤地にでかく「Hotto Motto」の懸垂幕。目がちかちかしたよ。
だいたいそもそも「KKB鹿児島放送開局30周年興行」なのに、ホールの緞帳にでかでかと「MBC南日本放送」って刺繍されている。鹿児島市民文化ホール第2の緞帳は昔からそうなってるんだから分かりそうなものを。たしかにKKBの局からは近いけど、もっと場所を考えたほうがよかったんじゃないか?

相撲や歌舞伎と違って落語の襲名披露はそんなに堅苦しいものではない。
ゆるいトークショーのような感じだ。
普段落語家は一人で出てきてしゃべって帰っていく。
複数の落語家が一度に出てきてしゃべくりあうのはめずらしく、おもしろい。
もっとも、日本テレビの大喜利番組のせいで、そういう絵柄が珍奇なものだというイメージは世間にはないだろうけど。あれは本来は、余興なんですよ。余興。

取り前は漫才。今いくよくるよ。いまだにどっちがどっちだかよくわからん。
なにかネタをやっていた。よく覚えていない。というのも、皮肉なことに、ぜんぜん違うことでウけていた。
肥えている人の方の大げさなドレスが途中で壊れたようで、下の方のフリルがずるずる落ち始め、それを間一髪で支えようと吊り上げる動きが爆笑を誘っていた。「もしかしたらこれもネタなのかな」と思ったが、どう観てもそうじゃないようだった。なんとか自分たちのネタを続けようとしていたから。
でも最後には、ドレスの腰のフリルが全部ずるりと床に落ちてしまい、ふたりともあきらめてそっちの方で話し始めた。
アクシデントがあっても笑いに持っていく力量はプロだなと思った。

大取りはもちろん六代目桂文枝。
有名人だからね。間をおくだけで笑いがおこる。まさに三枝タイムだった。テレビで顔を売った落語家はみんなこうなる。談志も円楽も円蔵も。そういうのもいいのかも。
ネタは、熟年夫婦の夫側の悲哀みたいなもの。これはあまり熟年夫婦は一緒にみたらいけないかも。喧嘩の引き金になる可能性大だ。笑ったら相方に怒られそうな気がする。
しかし師匠、さすが面白かった。創作落語の世界では間違いなく現代の名人である。だからなおさら古典を聴いてみたい。

最悪だったのは帰りだ。
鹿児島市民文化ホールの駐車場は完全にカオスと化していた。
他人のことなど考える余裕も利かす気も失せた狭視野の老人たちの車が、一箇所しかない駐車場の出口に向い、放射状に大挙し、駐車場の白線など関係なしに前へ前へ。つまりあってお互いがにっちもさっちもいかない。窓越しにガンを飛ばしては反らしあう陰険な眼。車同士は2センチ間隔くらいに寄せられ、横から紙切れ一枚挟ませない勢い。上空から見たら鰯の群れのようだったろう。
誘導もいない。これはいけない、事故につながるよ。
わたしの車は出口のすぐそばに停めていたのだが、トイレにいってから駐車場におりたため、車のエンジンをかけたものの、まったくもって動きがとれず、鰯の群れを横から眺めているしかなかった。
駐車場から出るのに30分以上かかった。
親切なおばちゃんがいて、「どうぞ」ってやってくれなかったら、あと20分くらいは残されたことだろう。

年寄りの多い観劇は、ぜひ公共の交通機関で。